研究内容の紹介
分子原子のモデリングとMDシミュレーション

溶液やガラスなどの化学材料は,目的の機能が得られるようにナノレベル(10の-12乗)で設計されており,その設計図となる”化学構造”は,分子原子の振る舞いを特徴付ける重要な情報です。そのナノメートルスケールの分子原子のダイナミクス=動きは,放射光施設などを用いた実験測定から観測することができますが,科学的に予測する方法として,計算機クラスタを使った分子シミュレーションがあります。最近では,「京」や「富岳」などの超大型スーパーコンピュータを使ったウイルス分子の超並列コンピューティングなども展開されているように,計算機シミュレーションは実験測定と対を成す研究手法として大きく普及してきました。


量子化学計算による新しいモデリング

計算機シミュレーションを行う上では,分子や原子に働く”チカラ”,すなわち相互作用をどのように表現するかが一つの鍵となります。その相互作用を基にして,原子集団の動きをナノ秒~マイクロ秒のオーダーで解析するのが分子動力学(MD)シミュレーションです。相互作用の関数モデルには,分子レベルの性質を数値化した情報が詰め込まれているため,相互作用モデルのクオリティはシミュレーションの正確性へと直結します。そこで我々の研究では,ナノレベルの非常に小さい空間に存在する分子原子の動きを忠実に再現できるよう,”分子モデリングの方法”を構築しています。まず量子化学計算によって,できるだけ高精度な相互作用の働きを調べてから,その結果を再現するように,分子モデリングを行います。その過程で,様々な物理化学的なエッセンスを考慮して構築することで,溶液やガラス,液晶,高分子など,様々な物質群のシミュレーションの精度を向上させることができ,より現実系に沿った正確な分子ダイナミクスの観測が可能になります。

  • [イオン液晶系] Y. Ishii, N. Matubayasi, H. Washizu, submitted (2022).
  • [イオン液体系] Y. Ishii, N. Matubayasi, J. Chem. Theory Comput16, 651-665 (2020).
  • [イオン液体系] 石井良樹, 松林伸幸, アンサンブル, 22, 142-150 (2020).
  • [ガラス系] 石井良樹, アンサンブル 20, 52-57 (2018).
  • [ガラス系] Y. Ishii, M. Salanne, T. Charpentier, K. Shiraki, K. Kasahara, N. Ohtori, J. Phys. Chem. C 120, 24370-24381 (2016).
  • [溶融塩系] Y. Ishii, S. Kasai, M. Salanne, N. Ohtori, Mol. Phys. 113, 2442-2450 (2015).
  • [溶融塩系] 石井良樹, 笠井智, 喜古佐太郎, 白木康一, 大鳥範和, Molten Salts 58, 97-104 (2015).

物性解析のための統計熱力学的手法の拡張

  • K. Takemoto, Y. Ishii, H. Washizu, K. Kim, N. Matubayasi, J. Chem. Phys. 156, 014901 (2022).
  • Y. Ishii, N. Yamamoto, N. Matubayasi, B. W. Zhang, D. Cui, R. Levy, J. Chem. Theory Comput. 15, 2896-2912 (2019).
  • M. Ogawa, Y. Ishii, N. Ohtori, Chem. Lett. 45, 98-100 (2016).
  • Y. Ishii, K. Sato, M. Salanne, P. A. Madden, N. Ohtori, J. Chem. Phys. 140, 114502 (2014); J. Phys. Chem. B 118, 3385–3391 (2014).

電解質やソフトマターの物理化学

イオン液晶などによる不均一分子集合系の溶液化学と水処理膜材料への展開

  • Y. Ishii, N. Matubayasi, H. Washizu, submitted (2022).
  • Y. Ishii, N. Matubayasi, G. Watanabe, T. Kato, H. Washizu, Sci. Adv. 7, eabf0669 (2021).
  • M. Ogawa, Y. Ishii, N. Ohtori, Chem. Lett. 45, 98-100 (2016).

イオン液体の輸送物性と二次電池材料への応用

イオン液体はアルカリイオン二次電池の難燃性電解質として提案されており,溶液系でナトリウムイオンなどをいかに効率よく輸送させるかが非常に重要となっています。そのような溶液系で生じる原子分子レベルの影響を調べるため,MDシミュレーションを用いた様々なイオン液体の物性解析を進めています。特に我々の分子モデルでは,熱的安定性だけでなくイオン電導率や粘性率などの精度も向上しており,イオンが感じる溶液環境の違いをより正確に捉えることができることから,この手法を用いてナトリウムイオンの特異的な拡散メカニズムと溶媒分子の影響などを明らかにしてきました。京大の実験グループと連携することで,より優れた電解質材料を探索しています。

  • L. Hakim, Y. Ishii, N. Matubayasi, J. Phys. Chem. B 125, 3374-3385 (2021).
  • L. Hakim, Y. Ishii, K. Matsumoto, R. Hagiwara, K. Ohara, Y. Umebayashi, N. Matubayasi, J. Phys. Chem. B 124, 7291-7305 (2020).
  • Y. Ishii, N. Matubayasi, J. Chem. Theory Comput. 16, 651-665 (2020).

高分子のなかの相互作用メカニズムと分子機能予測

  • Y. Ishii, H. Torii, Y. Ikemoto, H. Washizu et al., in preparation (2022).
  • Y. Kawai, J. Park, Y. Ishii, O. Urakawa, S. Murayama, R. Ikura, M. Osaki, Y. Ikemoto, H. Yamaguchi, A. Harada, T. Inoue, H. Washizu, G. Matsuba, Y. Takashima, NPG Asia Mater14, 32 (2022).

ソフトマターのなかで観測される輸送物性の物理化学的起源の考察

  • Y. Ishii, T. Murakami, N. Ohtori, J. Mol. Liq. 346, 118235 (2022).
  • N. Ohtori, Y. Kondo, Y. Ishii, J. Mol. Liq. 314, 113764 (2020).
  • K. Mizuta, Y. Ishii, K. Kim, N. Matubayasi, Soft Matter 15, 4380-4390 (2019).
  • N. Ohtori, H. Uchiyama, Y. Ishii, J. Chem. Phys. 149, 214501 (2018).
  • Y. Ishii, N. Ohtori, Phys. Rev. E 93, 050104 (2016).
  • N. Ohtori, Y. Ishii, J. Chem. Phys. 143, 164514 (2015); Phys. Rev. E 91, 012111 (2015).

ガラスや高温溶融塩のナノ構造化学

共有結合とイオン結合が織りなす光機能ガラスの中距離構造制御

  • K. Shinozaki, Y. Ishii, S. Sukenaga, K. Ohara, ACS Appl. Nano Mater. 5, 4281-4292 (2022).

高温無機材料におけるイオンダイナミクスの学理構築

  • M. Suzuki, N. Umesaki, Y. Ishii, J. Am. Ceram. Soc. 105, 700-711 (2022).
  • A. Serva, A. Guerault, Y. Ishii, E. Gouillart, E. Burov, M. Salanne, J. Chem. Phys. 153, 214505 (2020).
  • P. S. Salmon, G. S. Moody, Y. Ishii, A. Polidori, M. Salanne, A. Zeidler et al., J. Non-Cryst. Solids X 3, 100024 (2019).
  • Y. Ishii, M. Salanne, T. Charpentier, K. Shiraki, K. Kasahara, N. Ohtori, J. Phys. Chem. C 120, 24370 (2016).
  • Y. Ishii, S. Kasai, M. Salanne, N. Ohtori, Mol. Phys. 113, 2442 (2015).
  • Y. Ishii, K. Sato, M. Salanne, P. A. Madden, N. Ohtori, J. Phys. Chem. B 118, 3385 (2014).